》きに行つた。それは父《ちゝ》に、食卓の準備が出来|上《あが》つた旨《むね》を知らせる為《ため》であつた。
「では何《ど》うぞ」と父《ちゝ》は立ち上《あ》がつた。高木も会釈して立ち上《あ》がつた。佐川の令嬢も叔父《おぢ》に継《つ》いで立ち上《あ》がつた。代助は其時、女の腰から下《した》の、比較的に細く長《なが》い事を発見した。食卓では、父《ちゝ》と高木が、真中《まんなか》に向き合つた。高木の右に梅子が坐つて、父《ちゝ》の左に令嬢が席を占《し》めた。女同志が向き合つた如く、誠吾と代助も向き合つた。代助は五味台《クルエツト、スタンド》を中《なか》に、少し斜《なゝめ》に反《そ》れた位地から令嬢の顔《かほ》を眺める事になつた。代助は其|頬《ほゝ》の肉と色が、著《いちぢ》るしく後《うしろ》の窓から射《さ》す光線の影響を受けて、鼻の境《さかひ》に暗過《くらす》ぎる影《かげ》を作つた様に思つた。其代り耳に接した方は、明《あき》らかに薄紅《うすくれなゐ》であつた。殊に小さい耳が、日《ひ》の光を透《とほ》してゐるかの如くデリケートに見えた。皮膚《ひふ》とは反対に、令嬢は黒い鳶色の大きな眼《め》を有したゐ
前へ 次へ
全490ページ中306ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング