帰《かへ》らなかつた。嫂《あによめ》丈がちやんと支度をして、座敷に坐《すは》つてゐた。代助の顔《かほ》を見て、
「あなたも、随分乱暴ね。人《ひと》を出《だ》し抜《ぬ》いて旅行するなんて」と、いきなり遣《や》り込めた。梅子は場合によると、決して論理《ロジツク》を有《も》ち得ない女であつた。此場合にも、自分が代助を出《だ》し抜《ぬ》いた事には丸で気が付《つ》いてゐない挨拶の仕方《しかた》であつた。それが代助には愛嬌に見えた。で、直《すぐ》そこへ坐《すは》り込んで梅子の服装の品評を始めた。父《ちゝ》は奥にゐると聞《き》いたが、わざと行《い》かなかつた。強《し》ひられたとき、
「今に御客さんが来《き》たら、僕が奥《おく》へ知らせに行く。其時挨拶をすれば好《よ》からう」と云つて、矢っ張り平常《へいぜい》の様な無駄口《むだくち》を叩《たゝ》いてゐた。けれども佐川の娘に関しては、一言も口《くち》を切《き》らなかつた。梅子は何《なん》とかして、話《はなし》を其所《そこ》へ持つて行かうとした。代助には、それが明《あき》らかに見えた。だから、猶《なほ》空《そら》とぼけて讐《かたき》を取つた。
 其うち待ち
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