つて、団扇さへ膝《ひざ》の傍《そば》に置いてゐた。平生《いつも》の頬《ほゝ》に、心持《こゝろもち》暖《あたゝか》い色を出《だ》して、もう帰るでせうから、緩《ゆつ》くりしてゐらつしやいと、茶の間《ま》へ茶を入れに立《た》つた。髪は西洋風に結つてゐた。
平岡は三千代の云つた通りには中々《なか/\》帰らなかつた。何時《いつ》でも斯んなに遅《おそ》いのかと尋ねたら、笑ひながら、まあ左《そ》んな所でせうと答へた。代助は其|笑《わらひ》の中《なか》に一種《いつしゆ》の淋《さみ》しさを認めて、眼《め》を正《たゞ》して、三千代の顔《かほ》を凝《じつ》と見た。三千代は急に団扇《うちは》を取つて袖《そで》の下《した》を煽《あほ》いだ。
代助は平岡の経済の事が気に掛《かゝ》つた。正面から、此頃《このごろ》は生活費には不自由はあるまいと尋ねて見た。三千代は左様《さう》ですねと云つて、又前の様な笑《わら》ひ方《かた》をした。代助がすぐ返事をしなかつたものだから、
「貴方《あなた》には、左様《さう》見えて」と今度は向ふから聞き直《なほ》した。さうして、手に持つた団扇《うちは》を放り出《だ》して、湯《ゆ》から出
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