」と注意した。代助はグラツドストーンを前へ置いて、顔《かほ》を上《あ》げた。
「左様《さう》、少し待《ま》つて呉れ給へ」
 庭《には》を見ると、生垣《いけがき》の要目《かなめ》の頂《いたゞき》に、まだ薄明《うすあか》るい日足《ひあし》がうろついてゐた。代助は外《そと》を覗《のぞ》きながら、是から三十分のうちに行く先《さき》を極《き》めやうと考へた。何でも都合のよささうな時|間《かん》に出《で》る汽車に乗つて、其汽車の持つて行く所へ降《お》りて、其所《そこ》で明日《あした》迄|暮《く》らして、暮《く》らしてゐるうちに、又新らしい運命が、自分を攫《さら》ひに来《く》るのを待つ積《つもり》であつた。旅費は無論充分でなかつた。代助の旅装に適した程の宿泊《とまり》を続《つゞ》けるとすれば、一週間も保《も》たない位であつた。けれども、さう云ふ点になると、代助は無頓着であつた。愈《いよ/\》となれば、家《うち》から金《かね》を取り寄《よ》せる気でゐた。それから、本来が四辺《しへん》の風気《ふうき》を換えるのを目的とする移動だから、贅沢の方面へは重きを置かない決心であつた。興に乗れば、荷持《にもち》を
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