所へ這入つて、話《はなし》をしてゐた。若い女にも時々話しかける様であつた。然し女の方では笑《わら》ひ顔を一寸《ちよつと》見せる丈で、すぐ舞台の方へ真面目《まじめ》に向き直つた。代助は嫂《あによめ》に其人《そのひと》の名を聞《き》かうと思つたが、兄《あに》は人《ひと》の集《あつま》る所へさへ出れば、何所《どこ》へでも斯《かく》の如く平気に這入り込む程、世間《せけん》の広《ひろ》い、又|世間《せけん》を自分の家《いへ》の様に心得てゐる男であるから、気にも掛《か》けずに黙《だま》つてゐた。
 すると幕《まく》の切れ目に、兄《あに》が入口《いりぐち》迄|帰《かへ》つて来《き》て、代助|一寸《ちよつと》来《こ》いと云ひながら、代助を其|金縁《きんぶち》の男の席へ連れて行《い》つて、愚弟だと紹介した。それから代助には、是が神戸の高木さんだと云つて引合《ひきあは》した。金縁《きんぶち》の紳士は、若《わか》い女を顧みて、私の姪《めい》ですと云つた。女はしとやかに御辞義をした。其時《そのとき》兄が、佐川さんの令嬢だと口《くち》を添《そ》へた。代助は女の名を聞いたとき、旨《うま》く掛《か》けられたと腹《は
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