、普通よりは大きく廂《ひさし》を出《だ》して、多くは顎《あご》を襟元《えりもと》へぴたりと着《つ》けて坐《すは》つてゐた。
 代助は苦《くる》しいので、何返《なんべん》も席《せき》を立《た》つて、後《うしろ》の廊下へ出《で》て、狭《せま》い空《そら》を仰いだ。兄《あに》が来《き》たら、嫂《あによめ》と縫子を引き渡《わた》して早《はや》く帰りたい位に思つた。一|遍《ぺん》は縫子を連《つ》れて、其所等《そこいら》をぐる/\運動して歩《ある》いた。仕舞には些《ち》と酒でも取り寄《よ》せて飲《の》まうかと思つた。
 兄《あに》は日暮《ひくれ》とすれ/\に来《き》た。大変|遅《おそ》かつたぢやありませんかと云つた時、帯の間《あひだ》から、金時計を出《だ》して見せた。実際六時少し回《まは》つた許であつた。兄《あに》は例の如く、平気な顔《かほ》をして、方々|見回《みまは》してゐた。が、飯《めし》を食《く》ふ時、立つて廊下へ出たぎり、中々《なか/\》帰《かへ》つて来《こ》なかつた。しばらくして、代助は不図振り返《かへ》つたら、一軒|置《お》いて隣《とな》りの金縁《きんぶち》の眼鏡《めがね》を掛けた男の
前へ 次へ
全490ページ中271ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング