は、もう少し周囲の物を何《ど》うかしなければならぬと、思ひながら、室《へや》の中《なか》をぐる/\見廻《みまは》した。それから、又ぽかんとして壁《かべ》を眺《なが》めた。が、最後《さいご》に、自分を此薄弱な生活から救ひ得る方法は、たゞ一つあると考へた。さうして口《くち》の内《うち》で云つた。
「矢つ張り、三千代さんに逢《あ》はなくちや不可《いか》ん」

       十一の三

 彼は足の進まない方角へ散歩に出《で》たのを悔いた。もう一遍|出直《でなほ》して、平岡の許《もと》迄|行《い》かうかと思つてゐる所へ、森川町から寺尾が来《き》た。新らしい麦藁《むぎわら》帽を被《かぶ》つて、閑静な薄い羽織を着て、暑《あつ》い/\と云つて赤い顔《かほ》を拭《ふ》いた。
「何《なん》だつて、今時分《いまじぶん》来《き》たんだ」と代助は愛想《あいそ》もなく云ひ放つた。彼と寺尾とは平生でも、この位な言葉で交際してゐたのである。
「今|時分《じぶん》が丁度訪問に好《い》い刻限だらう。君《きみ》、又|昼寐《ひるね》をしたな。どうも職業のない人間は、惰弱で不可《いか》ん。君は一体何の為《ため》に生《うま》れて
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