である。
「貴方《あなた》だつて、鼻《はな》を着《つ》けて嗅《か》いで入らしつたぢやありませんか」と云つた。代助はそんな事があつた様にも思つて、仕方なしに苦笑した。

       十の六

 そのうち雨《あめ》は益《ます/\》深《ふか》くなつた。家《いへ》を包《つゝ》んで遠い音《おと》が聴《きこ》えた。門野《かどの》が出《で》て来《き》て、少《すこ》し寒《さむ》い様ですな、硝子戸《がらすど》を閉《し》めませうかと聞《き》いた。硝子戸《がらすど》を引《ひ》く間《あひだ》、二人《ふたり》は顔《かほ》を揃《そろ》えて庭《には》の方を見《み》てゐた。青《あを》い木《き》の葉《は》が悉《ことごと》く濡《ぬ》れて、静《しづ》かな湿《しめ》り気《け》が、硝子越《がらすごし》に代助の頭《あたま》に吹《ふ》き込《こ》んで来《き》た。世《よ》の中《なか》の浮《う》いてゐるものは残らず大地《だいち》の上《うへ》に落ち付《つ》いた様に見えた。代助は久《ひさ》し振《ぶ》りで吾《われ》に返《かへ》つた心持がした。
「好《い》い雨《あめ》ですね」と云つた。
「些《ちつ》とも好《よ》かないわ、私《わたし》、草履《ざ
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