》ぞいた。座敷へ来《き》て兄《あに》を探《さが》したが見えなかつた。嫂《あによめ》はと尋ねたら、客間《きやくま》だと下女が教へたので、行《い》つて戸を明《あ》けて見ると、縫子のピヤノの先生が来《き》てゐた。代助は先生に一寸《ちよつと》挨拶をして、梅子《うめこ》を戸口《とぐち》迄|呼《よ》び出《だ》した。
「あなたは僕《ぼく》の事を何か御父《おとう》さんに讒訴しやしないか」
梅子はハヽヽヽと笑つた。さうして、
「まあ御這入んなさいよ。丁度|好《い》い所だから」と云つて、代助を楽器の傍《そば》迄引張つて行《い》つた。
十の一
蟻《あり》の座敷《ざしき》へ上《あ》がる時候になつた。代助は大きな鉢《はち》へ水を張《は》つて、其|中《なか》に真白《まつしろ》なリリー、オフ、ゼ、※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]レーを茎《くき》ごと漬《つ》けた。簇《むら》がる細《こま》かい花が、濃《こ》い模様の縁《ふち》を隠《かく》した。鉢《はち》を動《うご》かすと、花《はな》が零《こぼ》れる。代助はそれを大《おほ》きな字引《じびき》の上《うへ》に載《の》せた。さうして、其|傍《そば》に
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