このまへ》梅子に礼を云ひに行つた時、梅子から一寸《ちよつと》奥《おく》へ行つて、挨拶をしてゐらつしやいと注意された。代助は笑ひながら御|父《とう》さんはゐるんですかと空《そら》とぼけた。ゐらつしやるわと云ふ確答を得た時でも、今日《けふ》はちと急《いそ》ぐから廃《よ》さうと帰つて来《き》た。
九の二
今日《けふ》はわざ/\其為《そのため》に来《き》たのだから、否《いや》でも応でも父《ちゝ》に逢はなければならない。相変らず、内《ない》玄関の方から廻つて座敷へ来《く》ると、珍《めづ》らしく兄《あに》の誠吾が胡坐《あぐら》をかいて、酒《さけ》を呑んでゐた。梅子も傍《そば》に坐《すは》つてゐた。兄《あに》は代助を見て、
「何《ど》うだ、一盃|遣《や》らないか」と、前にあつた葡萄酒の壜《びん》を持つて振《ふ》つて見せた。中《なか》にはまだ余程這入つてゐた。梅子は手を敲《たゝ》いて洋盞《コツプ》を取り寄せた。
「当《あ》てゝ御|覧《らん》なさい。どの位|古《ふる》いんだか」と一杯|注《つ》いだ。
「代助に分《わか》るものか」と云つて、誠吾は弟の唇《くちびる》のあたりを眺《なが》め
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