実業に従事した。父は実際に於て年々此生活慾の為《ため》に腐蝕されつゝ今日に至つた。だから昔の自分と、今の自分の間には、大いな相違のあるべき筈である。それを父《ちゝ》は自認してゐなかつた。昔《むかし》の自分が、昔通《むかしどほ》りの心得で、今の事業を是迄に成し遂《と》げたとばかり公言する。けれども封建時代にのみ通用すべき教育の範囲を狭《せば》める事なしに、現代の生活慾を時々刻々に充《み》たして行ける訳がないと代助は考へた。もし双方を其儘に存在させ様とすれば、之《これ》を敢てする個人は、矛盾の為《ため》に大苦痛を受《う》けなければならない。もし内心に此苦痛を受けながら、たゞ苦痛の自覚丈|明《あき》らかで、何の為《ため》の苦痛だか分別が付かないならば、それは頭脳の鈍《にぶ》い劣等な人種である。代助は父に対する毎《ごと》に、父《ちゝ》は自己を隠蔽《いんぺい》する偽君子《ぎくんし》か、もしくは分別の足らない愚物《ぐぶつ》か、何方《どつち》かでなくてはならない様な気がした。さうして、左《さ》う云ふ気がするのが厭《いや》でならなかつた。
 と云つて、父《ちゝ》は代助の手際で、何《ど》うする事も出来な
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