》でも遣《や》る気だから呑気なもんだ。……」と一人《ひとり》で喋舌《しやべ》つた。
九の一
代助は又《また》父《ちゝ》から呼《よ》ばれた。代助には其用事が大抵|分《わか》つてゐた。代助は不断《ふだん》から成るべく父《ちゝ》を避《さ》けて会《あ》はない様にしてゐた。此頃《このごろ》になつては猶更|奥《おく》へ寄《よ》り付《つ》かなかつた。逢《あ》ふと、叮嚀な言葉を使《つか》つて応対してゐるにも拘はらず、腹《はら》の中《なか》では、父《ちゝ》を侮辱《ぶじよく》してゐる様な気がしてならなかつたからである。
代助は人類の一人《いちにん》として、互《たがひ》を腹《はら》の中《なか》で侮辱する事なしには、互《たがひ》に接触を敢てし得ぬ、現代の社会を、二十世紀の堕落と呼んでゐた。さうして、これを、近来急に膨脹した生活慾の高圧力が道義慾の崩壊を促がしたものと解釈してゐた。又これを此等新旧両慾の衝突と見傚してゐた。最後に、此生活慾の目醒しい発展を、欧洲から押し寄せた海嘯《つなみ》と心得てゐた。
この二《ふた》つの因数《フアクトー》は、何処《どこ》かで平衡を得なければならない。けれ
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