みだ》れる葉《は》の中《なか》に鼻を突《つ》つ込んだ。椽側の滴《したゝり》は其儘にして置いた。立ち上《あ》がつて、袂《たもと》から手帛《ハンケチ》を出《だ》して、鋏《はさみ》の刃《は》を拭《ふ》いてゐる所へ、門野《かどの》が平岡さんが御出《おいで》ですと報《しら》せて来《き》たのである。代助は其時平岡の事《こと》も三千代の事も、丸で頭《あたま》の中《なか》に考へてゐなかつた。只《たゞ》不思議な緑色《みどりいろ》の液体《えきたい》に支配されて、比較的|世間《せけん》に関係のない情調の下《もと》に動《うご》いてゐた。それが平岡の名を聞くや否や、すぐ消えて仕舞つた。さうして、何だか逢ひたくない様な気持がした。
「此方《こつち》へ御|通《とほ》し申しませうか」と門野から催促された時、代助はうんと云つて、座敷へ這入つた。あとから席《せき》に導《みちび》かれた平岡を見ると、もう夏の洋服を着《き》てゐた。襟《えり》も白襯衣《しろしやつ》も新《あた》らしい上《うへ》に、流行の編襟飾《あみえりかざり》を掛《か》けて、浪人とは誰《だれ》にも受け取れない位、ハイカラに取り繕《つく》ろつてゐた。
 話《はな》
前へ 次へ
全490ページ中184ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング