答へなかつた。たゞ眼《め》を挙《あ》げて代助を見た。
「実《じつ》は、直《すぐ》にもと思つたんだけれども、此方《こつち》の都合が付《つ》かなかつたものだから、遂《つい》遅《おそ》くなつたんだが、何《ど》うですか、もう始末は付《つ》きましたか」と聞いた。
 其時三千代は急に心細さうな低《ひく》い声になつた。さうして怨《えん》ずる様に、
「未《まだ》ですわ。だつて、片付《かたづ》く訳が無《な》いぢやありませんか」と云つた儘、眼《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて凝《じつ》と代助を見てゐた。代助は折《を》れた小切手を取り上《あ》げて二つに開《ひら》いた。
「是丈ぢや駄目《だめ》ですか」
 三千代は手を伸《の》ばして小切手を受取《うけと》つた。
「難有う。平岡が喜びますわ」と静《しづ》かに小切手を畳《たゝみ》の上《うへ》に置《お》いた。
 代助は金《かね》を借りて来《き》た由来を、極ざつと説明して、自分は斯《か》ういふ呑気な身分の様に見えるけれども、何か必要があつて、自分以外の事に、手を出《だ》さうとすると、丸で無能力になるんだから、そこは悪《わる》く思つて呉れない様
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