予期した通り、平岡は相変らず奔走してゐる。が、此一週間程は、あんまり外《そと》へ出《で》なくなつた。疲《つか》れたと云つて、よく宅《うち》に寐《ね》てゐる。でなければ酒《さけ》を飲《の》む。人《ひと》が尋《たづ》ねて来《く》れば猶|飲《の》む。さうして善《よ》く怒《おこ》る。さかんに人《ひと》を罵倒する。のださうである。
「昔《むかし》と違《ちが》つて気が荒《あら》くなつて困《こま》るわ」と云つて、三千代《みちよ》は暗に同情を求める様子であつた。代助は黙《だま》つてゐた。下女が帰《かへ》つて来《き》て、勝手|口《ぐち》でがた/\音《おと》をさせた。しばらくすると、胡摩竹《ごまだけ》の台《だい》の着《つ》いた洋燈《ランプ》を持つて出《で》た。襖《ふすま》を締《し》める時《とき》、代助の顔《かほ》を偸《ぬす》む様に見て行つた。
 代助は懐《ふところ》から例の小|切手《ぎつて》を出《だ》した。二つに折《を》れたのを其儘三千代の前に置いて、奥さん、と呼び掛《か》けた。代助が三千代を奥さんと呼んだのは始めてゞあつた。
「先達《せんだつ》て御頼《おたのみ》の金《かね》ですがね」
 三千代は何にも
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