り調べを受けるものゝ数《かず》が大分多くなつて来《き》て、世間ではこれを大疑獄の様に囃し立《た》てる様になつた。ある新聞ではこれを英国に対する検挙と称した。其説明には、英国大使が日糖株を買ひ込んで、損をして、苦情を鳴らし出《だ》したので、日本政府も英国へ対する申訳に手を下《くだ》したのだとあつた。
日糖事件の起る少し前、東洋汽船といふ会社は、壱割二分の配当をした後《あと》の半期に、八十万円の欠損を報告した事があつた。それを代助は記憶して居た。其時の新聞が此報告を評して信を置くに足らんと云つた事も記憶してゐた。
代助は自分の父《ちゝ》と兄《あに》の関係してゐる会社に就ては何事《なにごと》も知らなかつた。けれども、いつ何《ど》んな事が起るまいものでもないとは常から考へてゐた。さうして、父《ちゝ》も兄《あに》もあらゆる点に於て神聖であるとは信じてゐなかつた。もし八釜|敷《し》い吟味をされたなら、両方共拘引に価《あたひ》する資格が出来はしまいかと迄疑つてゐた。それ程でなくつても、父《ちゝ》と兄《あに》の財産が、彼等の脳力と手腕丈で、誰《だれ》が見ても尤《もつとも》と認める様に、作《つく》り
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