て講釈する気はない。が、段々押し詰《つめ》られると、苦し紛《まぎ》れに、
「だが、姉《ねえ》さん、僕は何《ど》うしても嫁《よめ》を貰《もら》はなければならないのかね」と聞《き》く事がある。代助は無論|真面目《まじめ》に聞《き》く積《つもり》だけれども、嫂《あによめ》の方では呆《あき》れて仕舞ふ。さうして、自分を茶にするのだと取る。梅子は其晩代助に向つて、平生《いつも》の手続《てつゞき》を繰《く》り返《かへ》した後《あと》で、斯《こ》んな事を云つた。
「妙なのね、そんなに厭《いや》がるのは。――厭《いや》なんぢやないつて、口《くち》では仰《おつ》しやるけれども、貰《もら》はなければ、厭《いや》なのと同《おん》なしぢやありませんか。それぢや誰《だれ》か好《す》きなのがあるんでせう。其方《そのかた》の名を仰《おつし》やい」
代助は今迄|嫁《よめ》の候補者としては、たゞの一人も好《す》いた女《をんな》を頭《あたま》の中《なか》に指名してゐた覚がなかつた。が、今《いま》斯《か》う云はれた時、どう云ふ訳か、不意に三千代といふ名が心に浮かんだ。つゞいて、だから先刻《さつき》云つた金《かね》を貸して
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