資産をいくらか持《も》つてゐるから、或は出来ないとも限らない。夫《それ》で駄目なら、又高利でも借《か》りるのだが、代助はまだ其所《そこ》迄には気が進んでゐなかつた。たゞ早晩平岡から表向きに、連帯責任を強ひられて、それを断わり切れない位なら、一層《いつそ》此方《こつち》から進んで、直接に三千代《みちよ》を喜ばしてやる方が遥かに愉快だといふ取捨の念丈は殆んど理窟を離れて、頭《あたま》の中《なか》に潜《ひそ》んでゐた。
 生暖《なまあたゝ》かい風《かぜ》の吹《ふ》く日であつた。曇《くも》つた天気が何時迄《いつまで》も無精《ぶせう》に空《そら》に引掛《ひつかゝ》つて、中々《なか/\》暮《く》れさうにない四時過から家《うち》を出《で》て、兄《あに》の宅迄《たくまで》電車で行つた。青山《あをやま》御所の少《すこ》し手前迄|来《く》ると、電車の左側《ひだりがは》を父《ちゝ》と兄《あに》が綱曳《つなびき》で急《いそ》がして通《とほ》つた。挨拶《あいさつ》をする暇《ひま》もないうちに擦《す》れ違《ちが》つたから、向ふは元より気が付《つ》かずに過《す》ぎ去つた。代助は次《つぎ》の停留所で下《お》りた。
 
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