。代助は其奴《そいつ》に体《からだ》をごし/\遣《や》られる度《たび》に、どうしても、埃及人《エジプトじん》に遣《や》られてゐる様な気がした。いくら思ひ返しても日本人とは思へなかつた。
まだ不思議な事がある。此間、ある書物を読んだら、ウエーバーと云ふ生理学者は自分の心臓《しんぞう》の鼓動を、増したり、減《へら》したり、随意に変化さしたと書いてあつたので、平生から鼓動を試験する癖《くせ》のある代助は、ためしに遣《や》つて見たくなつて、一日《いちじつ》に二三回位|怖々《こわ/″\》ながら試《ため》してゐるうちに、何《ど》うやら、ウエーバーと同じ様になりさうなので、急に驚ろいて已めにした。
湯のなかに、静《しづ》かに浸《つか》つてゐた代助は、何の気なしに右の手を左の胸の上《うへ》へ持つて行つたが、どん/\と云ふ命《いのち》の音《おと》を二三度聞くや否や、忽ちウエーバーを思ひ出《だ》して、すぐ流《なが》しへ下《お》りた。さうして、其所《そこ》に胡坐《あぐら》をかいた儘、茫然と、自分の足《あし》を見詰めてゐた。すると其|足《あし》が変になり始めた。どうも自分の胴から生《は》えてゐるんでなくて
前へ
次へ
全490ページ中141ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング