を向いた儘、むしや/\云はしてゐたが、やがて、どろんとした眼《め》を上げて、云つた。――
「今日《けふ》は久し振《ぶ》りに好《い》い心持に酔つた。なあ君。――君はあんまり好《い》い心持にならないね。何《ど》うも怪《け》しからん。僕が昔《むかし》の平岡常次郎になつてるのに、君が昔《むかし》の長井代助にならないのは怪《け》しからん。是非なり給《たま》へ。さうして、大いに遣《や》つて呉《く》れ給《たま》へ。僕《ぼく》も是《これ》から遣《や》る。から君《きみ》も遣《や》つて呉れ給《たま》へ」
 代助は此言葉のうちに、今の自己を昔《むかし》に返《かへ》さうとする真卒な又無邪気な一種の努力を認《みと》めた。さうして、それに動《うご》かされた。けれども一方では、一昨日《おとゝひ》、食《く》つた麺麭《パン》を今|返《かへ》せと強請《ねだ》られる様な気がした。
「君は酒を呑むと、言葉丈酔払つても、頭《あたま》は大抵|確《たし》かな男だから、僕も云ふがね」
「それだ。それでこそ長井君だ」
 代助は急に云ふのが厭《いや》になつた。
「君、頭《あたま》は確《たしか》かい」と聞いた。
「確《たしか》だとも。君さ
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