段々|口《くち》が多くなつて来《き》た。此男《このをとこ》はいくら酔つても、中《なか》/\平生を離れない事がある。かと思ふと、大変に元気づいて、調子に一種の悦楽《えつらく》を帯びて来《く》る。さうなると、普通の酒家以上に、能く弁する上に、時としては比較的|真面目《まじめ》な問題を持ち出して、相手と議論を上下して楽《たの》し気《げ》に見える。代助は其昔し、麦酒《ビール》の壜《びん》を互《たがひ》の間《あひだ》に並《なら》べて、よく平岡と戦《たゝか》つた事を覚えてゐる。代助に取つて不思議とも思はれるのは、平岡が斯《か》う云ふ状態に陥つた時が、一番平岡と議論がしやすいと云ふ自覚であつた。又酒を呑んで本音《ほんね》を吐《は》かうか、と平岡の方からよく云つたものだ。今日《こんにち》の二人《ふたり》の境界は其|時分《じぶん》とは、大分|離《はな》れて来《き》た。さうして、其離れて、近《ちか》づく路《みち》を見出し悪《にく》い事実を、双方共に腹の中《なか》で心得てゐる。東京へ着《つ》いた翌日《あくるひ》、三年振りで邂逅した二人《ふたり》は、其時《そのとき》既《すで》に、二人《ふたり》ともに何時《いつ
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