は斯くして、巴《ともえ》の如くに回転しつゝ、月から月へと進んで行つた。有意識か無意識か、巴《ともえ》の輪《わ》は回《めぐ》るに従つて次第に狭《せば》まつて来《き》た。遂《つい》に三巴《みつどもえ》が一所《いつしよ》に寄《よ》つて、丸い円にならうとする少し前の所で、忽然其一つが欠《か》けたため、残る二つは平衡を失なつた。
代助と三千代は五年の昔《むかし》を心置なく語り始めた。語るに従つて、現在の自己が遠退いて、段々と当時の学生時代に返つて来《き》た。二人《ふたり》の距離は又|元《もと》の様に近くなつた。
「あの時|兄《にい》さんが亡《な》くならないで、未《ま》だ達者でゐたら、今頃《いまごろ》私《わたくし》は何《ど》うしてゐるでせう」と三千代は、其時を恋《こひ》しがる様に云つた。
「兄《にい》さんが達者でゐたら、別《べつ》の人《ひと》になつて居《ゐ》る訳ですか」
「別な人《ひと》にはなりませんわ。貴方《あなた》は?」
「僕も同じ事です」
三千代は其時、少し窘《たしな》める様な調子で、
「あら嘘《うそ》」と云つた。代助は深《ふか》い眼《め》を三千代の上《うへ》に据ゑて、
「僕は、あの時も今《いま》も、少しも違《ちが》つてゐやしないのです」と答へた儘、猶しばらくは眼《め》を相手から離さなかつた。三千代は忽ち視線を外《そ》らした。さうして、半《なか》ば独り言《ごと》の様に、
「だつて、あの時から、もう違《ちが》つてゐらしつたんですもの」と云つた。
三千代の言葉は普通の談話としては余りに声が低過《ひくすぎ》た。代助は消《き》えて行く影《かげ》を踏《ふ》まへる如くに、すぐ其尾を捕《とら》えた。
「違《ちが》やしません。貴方《あなた》にはたゞ左様《さう》見える丈です。左様《さう》見《み》えたつて仕方がないが、それは僻目《ひがめ》だ」
代助の方は通例よりも熱心に判然《はつきり》した声《こえ》で自己を弁護する如くに云つた。三千代の声は益|低《ひく》かつた。
「僻目《ひがめ》でも何でも可《よ》くつてよ」
代助は黙《だま》つて三千代の様子を窺《うかゞ》つた。三千代は始めから、眼《め》を伏《ふ》せてゐた。代助には其長い睫毛《まつげ》の顫《ふる》へる様《さま》が能く見えた。
十四の十
「僕の存在には貴方《あなた》が必要だ。何《ど》うしても必要だ。僕《ぼく》は夫丈の事
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