《なん》とも催促されないが、此二三日は又青山へ呼び出《だ》されさうな気がしてならなかつた。代助は固より呼《よ》び出《だ》される迄|何《なに》も考へずにゐる気であつた。呼《よ》び出されたら、父《ちゝ》の顔色《かほいろ》と相談の上、又何とか即席に返事を拵らえる心|組《ぐみ》であつた。代助はあながち父《ちゝ》を馬鹿にする了見ではなかつた。あらゆる返事は、斯《か》う云ふ具合に、相手と自分を商量して、臨機に湧いて来《く》るのが本当だと思つてゐた。
もし、三千代に対する自分の態度が、最後の一歩前迄押し詰《つ》められた様な気|持《もち》がなかつたなら、代助は父《ちゝ》に対して無論さう云ふ所置を取つたらう。けれども、代助は今相手の顔色《かほいろ》如何《いかん》に拘はらず、手に持つた賽《さい》を投《な》げなければならなかつた。上《うへ》になつた目《め》が、平岡に都合が悪《わる》からうと、父《ちゝ》の気に入らなからうと、賽を投《な》げる以上は、天の法則通りになるより外《ほか》に仕方《しかた》はなかつた。賽を手に持《も》つ以上は、又|賽《さい》が投げられ可《べ》く作《つく》られたる以上は、賽《さい》の目《め》を極《き》めるものは自分以外にあらう筈はなかつた。代助は、最後の権威は自己にあるものと、腹《はら》のうちで定《さだ》めた。父《ちゝ》も兄《あに》も嫂《あによめ》も平岡も、決断の地平線上には出《で》て来《こ》なかつた。
彼はたゞ彼《かれ》の運命に対してのみ卑怯であつた。此四五日は掌《てのひら》に載《の》せた賽《さい》を眺《なが》め暮《く》らした。今日《けふ》もまだ握《にぎ》つてゐた。早く運命が戸外《そと》から来《き》て、其|手《て》を軽く敲《はた》いて呉れれば好《い》いと思《おも》つた。が、一方《いつぽう》では、まだ握《にぎ》つてゐられると云ふ意識が大層|嬉《うれ》しかつた。
門野《かどの》は時々《とき/″\》書斎へ来《き》た。来《く》る度《たび》に代助は洋卓《デスク》の前に凝《じつ》としてゐた。
「些《ちつ》と散歩にでも御出《おいで》になつたら如何《いかゞ》です。左様《さう》御勉強ぢや身体《からだ》に悪《わる》いでせう」と云つた事が一二度あつた。成程|顔色《かほいろ》が好《よ》くなかつた。夏向《なつむき》になつたので、門野《かどの》が湯《ゆ》を毎日|沸《わ》かして呉れた。代助は
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