、平岡の放埒から生じた経済事状に帰した。凡てを概括した上《うへ》で、平岡は貰《もら》ふべからざる人《ひと》を貰《もら》ひ、三千代は嫁《とつ》ぐ可《べ》からざる人《ひと》に嫁《とつ》いだのだと解決した。代助は心の中《うち》で痛《いた》く自分が平岡の依頼に応じて、三千代を彼の為《ため》に周旋した事を後悔した。けれども自分が三千代の心を動《うご》かすが為《ため》に、平岡が妻《さい》から離れたとは、何《ど》うしても思ひ得なかつた。
同時に代助の三千代に対する愛情は、此夫婦の現在の関係を、必須条件として募りつゝある事もまた一方では否《いな》み切れなかつた。三千代が平岡に嫁《とつ》ぐ前《まへ》、代助と三千代の間柄《あひだがら》は、どの位の程度迄進んでゐたかは、しばらく措《お》くとしても、彼《かれ》は現在の三千代には決して無頓着でゐる訳には行かなかつた。彼は病気に冒された三千代をたゞの昔《むかし》の三千代よりは気の毒に思つた。彼は小供を亡《な》くなした三千代をたゞの昔《むかし》の三千代よりは気の毒に思つた。彼は夫《おつと》の愛を失ひつゝある三千代をたゞの昔《むかし》の三千代よりは気の毒に思つた。彼《かれ》は生活難に苦しみつゝある三千代をたゞの昔《むかし》の三千代よりは気の毒に思つた。但し、代助は此夫婦の間《あひだ》を、正面から永久に引き放《はな》さうと試みる程大胆ではなかつた。彼の愛はさう逆上してはゐなかつた。
三千代の眼《ま》のあたり、苦しんでゐるのは経済問題であつた。平岡が自力で給し得る丈の生活費を勝手の方へ回《まは》さない事は、三千代の口吻で慥《たしか》であつた。代助は此点丈でもまづ何《ど》うかしなければなるまいと考へた。それで、
「一《ひと》つ私《わたし》が平岡君に逢《あ》つて、能く話して見やう」と云つた。三千代は淋しい顔《かほ》をして代助を見た。旨《うま》く行けば結構だが、遣《や》り損《そく》なへば益三千代の迷惑になる許《ばかり》だとは代助も承知してゐたので、強ひて左様《さう》しやうとも主張しかねた。三千代は又立つて次《つぎ》の間《ま》から一封《いつぷう》の書状を持《も》つて来《き》た。書状は薄青《うすあを》い状袋へ這入つてゐた。北海道にゐる父《ちゝ》から三千代へ宛《あて》たものであつた。三千代は状袋の中《なか》から長い手紙を出《だ》して、代助に見せた。
手紙には
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