あによめ》が向き合《あ》つて何か話《はなし》をしてゐた。
「おい、すぐ帰《かへ》つちや不可《いけ》ない。御父《おとう》さんが何か用があるさうだ。奥《おく》へ御出《おいで》」と兄《あに》はわざとらしい真面目《まじめ》な調子で云つた。梅子は薄|笑《わら》ひをしてゐる。代助は黙《だま》つて頭《あたま》を掻《か》いた。
代助は一人《ひとり》で父《ちゝ》の室《へや》へ行く勇気がなかつた。何とか蚊とか云つて、兄《あに》夫婦を引張つて行《い》かうとした。それが旨《うま》く成功しないので、とう/\其所《そこ》へ坐《すは》り込んで仕舞つた。所へ小間使《こまづかひ》が来《き》て、
「あの、若旦那様に一寸《ちよつと》、奥《おく》迄|入《いら》つしやる様に」と催促した。
「うん、今《いま》行《い》く」と返事をして、それから、兄《あに》夫婦に斯《か》ういふ理窟を述べた。――自分|一人《ひとり》で父《ちゝ》に逢《あ》ふと、父《ちゝ》があゝ云ふ気象の所へ持つて来《き》て、自分がこんな図法螺《づぼら》だから、殊によると大いに老人《としより》を怒《おこ》らして仕舞ふかも知れない。さうすると、兄《あに》夫婦だつて、後《あと》から面倒くさい調停をしたり何かしなければならない。其方《そのほう》が却つて迷惑になる訳だから、骨惜《ほねおしみ》をせずに今|一寸《ちよつと》一所に行《い》つて呉れたら宜《よ》からう。
兄《あに》は議論が嫌な男《おとこ》なので、何《な》んだ下《くだ》らないと云はぬ許《ばかり》の顔をしたが、
「ぢや、さあ行かう」と立ち上《あ》がつた。梅子も笑ひながらすぐに立《た》つた。三人して廊下を渡つて父《ちゝ》の室《へや》に行《い》つて、何事《なにごと》も起《おこ》らなかつたかの如く着坐した。
そこでは、梅子が如才《じよさい》なく、代助の過去に父《ちゝ》の小言《こごと》が飛《と》ばない様な手加減《てかげん》をした。さうして談話の潮流を、成るべく今帰つた来客の品評の方へ持《も》つて行《い》つた。梅子は佐川の令嬢を大変|大人《おとな》しさうな可《い》い子《こ》だと賞《ほ》めた。是には父《ちゝ》も兄《あに》も代助も同意を表した。けれども、兄《あに》は、もし亜米利加のミスの教育を受けたと云ふのが本当なら、もう少しは西洋流にはき/\しさうなものだと云ふ疑《うたがひ》を立《た》てた。代助は其|疑《うたが
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