迄出て行《い》つたが、沓脱《くつぬぎ》へ下《お》りながら振り返つて、突然
「何処《どこ》へ入らつしやるの」と代助を見上《みあ》げた。代助は、
「何処《どこ》つて、まだ分《わか》るもんか。ぐる/\回《まは》るんだ」と云つたので、誠太郎は又にや/\しながら、格子を出た。
十二の二
代助は其夜《そのよ》すぐ立《た》たうと思つて、グラツドストーンの中《なか》を門野《かどの》に掃|除《じ》さして、携帯品を少《すこ》し詰《つ》め込《こ》んだ。門野《かどの》は少《すく》なからざる好奇心を以て、代助の革鞄《かばん》を眺《なが》めてゐたが、
「少《すこ》し手伝《てつだ》ひませうか」と突立つたまゝ聞いた。代助は、
「なに、訳《わけ》はない」と断わりながら、一旦|詰《つ》め込んだ香水の壜《びん》を取《と》り出《だ》して、封被《ふうひ》を剥《は》いで、栓《せん》を抜《ぬ》いて、鼻《はな》に当《あ》てゝ嗅《か》いで見た。門野は少《すこ》し愛想を尽《つか》した様な具合で、自分の部屋へ引き取つた。二三|分《ぷん》すると又|出《で》て来《き》て、
「先生、車《くるま》を左様《さう》云つときますかな」と注意した。代助はグラツドストーンを前へ置いて、顔《かほ》を上《あ》げた。
「左様《さう》、少し待《ま》つて呉れ給へ」
庭《には》を見ると、生垣《いけがき》の要目《かなめ》の頂《いたゞき》に、まだ薄明《うすあか》るい日足《ひあし》がうろついてゐた。代助は外《そと》を覗《のぞ》きながら、是から三十分のうちに行く先《さき》を極《き》めやうと考へた。何でも都合のよささうな時|間《かん》に出《で》る汽車に乗つて、其汽車の持つて行く所へ降《お》りて、其所《そこ》で明日《あした》迄|暮《く》らして、暮《く》らしてゐるうちに、又新らしい運命が、自分を攫《さら》ひに来《く》るのを待つ積《つもり》であつた。旅費は無論充分でなかつた。代助の旅装に適した程の宿泊《とまり》を続《つゞ》けるとすれば、一週間も保《も》たない位であつた。けれども、さう云ふ点になると、代助は無頓着であつた。愈《いよ/\》となれば、家《うち》から金《かね》を取り寄《よ》せる気でゐた。それから、本来が四辺《しへん》の風気《ふうき》を換えるのを目的とする移動だから、贅沢の方面へは重きを置かない決心であつた。興に乗れば、荷持《にもち》を
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