ら》の中《なか》で思つた。が何事も知らぬものゝ如く装《よそほ》つて、好加減《いゝかげん》に話《はな》してゐた。すると嫂《あによめ》が一寸《ちよつと》自分の方を振り向《む》いた。
十一の八
五六|分《ぷん》して、代助は兄《あに》と共《とも》に自分の席に返《かへ》つた。佐川の娘《むすめ》を紹介される迄は、兄《あに》の見え次第|逃《に》げる気であつたが、今《いま》では左様《さう》不可《いか》なくなつた。余《あま》り現金に見えては、却つて好《よ》くない結果を引き起《おこ》しさうな気がしたので、苦しいのを我慢して坐《すは》つてゐた。兄《あに》も芝居に就ては全たく興味がなささうだつたけれども、例の如く鷹揚に構えて、黒い頭《あたま》を燻《いぶ》す程、葉巻《はまき》をゆらした。時々《とき/″\》評をすると、縫子《ぬひこ》あの幕《まく》は綺麗《きれい》だらう位の所であつた。梅子は平生の好奇心にも似ず、高木に就ても、佐川の娘に就ても、何等の質問も掛けず、一言の批評も加へなかつた。代助には其|澄《すま》した様子が却つて滑稽に思はれた。彼は今日《こんにち》迄|嫂《あによめ》の策略にかゝつた事が時々《とき/″\》あつた。けれども、只《たゞ》の一返も腹《はら》を立《た》てた事はなかつた。今度《こんど》の狂言も、平生ならば、退屈|紛《まぎ》らしの遊戯程度に解釈して、笑つて仕舞たかも知れない。夫許《そればかり》ではない。もし自分が結婚する気なら、却つて、此狂言を利用して、自《みづか》ら人巧的に、御目出度《おめでたい》喜劇《きげき》を作り上《あ》げて、生涯自分を嘲《あざ》けつて満足する事も出来た。然し此姉《このあね》迄が、今《いま》の自分を、父《ちゝ》や兄《あに》と共謀して、漸々《ぜん/\》窮地に誘《いざ》なつて行《ゆ》くかと思ふと、流石《さす》がに此|所作《しよさ》をたゞの滑稽として、観察する訳には行《い》かなかつた。代助は此先《このさき》、嫂《あによめ》が此事件を何《ど》う発展させる気だらうと考へて、少々弱つた。家《うち》のものゝ中《うち》で、嫂《あによめ》が一番|斯《こ》んな計画に興味をもつてゐたからである。もし嫂《あによめ》が此方面に向つて代助に肉薄すればする程、代助は漸々|家族《かぞく》のものと疎遠にならなければならないと云ふ恐れが、代助の頭《あたま》の何処《どこ》かに
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