が》談義のうちに、代助は二三の新《あたら》しい点も認《みと》めた。その一つは、御前は一体是からさき何《ど》うする料簡なんだと云ふ真面目な質問であつた。代助は今迄|父《ちゝ》からの注文ばかり受けてゐた。だから、其注文を曖昧に外《はづ》す事に慣《な》れてゐた。けれども、斯う云ふ大質問になると、さう口《くち》から出任《でまか》せに答へられない。無暗な事を云へば、すぐ父《ちゝ》を怒《おこ》らして仕舞ふからである。と云つて正直を自白すると、二三年間|父《ちゝ》の頭《あたま》を教育した上《うへ》でなくつては、通じない理窟になる。何故《なぜ》と云ふと、代助は今此大質問に応じて、自分の未来を明瞭に道破《いひやぶ》る丈の考も何も有つてゐなかつたからである。彼はそれが自分に取つては尤もな所だと思つてゐた。から、父《ちゝ》が、其通りを聞《き》いて、成程と納得する迄には、大変な時間がかゝる。或は生涯|通《つう》じつこないかも知れない。父《ちゝ》の気に入る様にするのは、何でも、国家の為《ため》とか、天下の為《ため》とか、景気の好《い》い事を、しかも結婚と両立しない様な事を、述《の》べて置けば済《す》むのであるが、代助は如何に、自己を侮辱する気になつても、是ばかりは馬鹿気《ばかげ》てゐて、口《くち》へ出す勇気がなかつた。そこで已を得ないから、実は色々計画もあるが、いづれ秩序|立《だ》てゝ来《き》て、御相談をする積であると答へた。答へた後《あと》で、実に滑稽だと思つたが仕方がなかつた。
代助は次《つぎ》に、独立の出来る丈の財産が欲《ほ》しくはないかと聞かれた。代助は無論|欲《ほ》しいと答へた。すると、父《ちゝ》が、では佐川の娘《むすめ》を貰《もら》つたら好《よ》からうと云ふ条件を付《つ》けた。其財産は佐川の娘《むすめ》が持つて来《く》るのか、又は父《ちゝ》が呉《く》れるのか甚だ曖昧であつた。代助は少《すこ》し其点に向つて進んで見たが、遂に要領を得なかつた。けれども、それを突き留める必要がないと考へて已《や》めた。
次《つぎ》に、一層《いつそ》洋行する気はないかと云はれた。代助は好《い》いでせうと云つて賛成した。けれども、これにも、矢っ張り結婚が先決問題として出《で》て来た。
「そんなに佐川の娘を貰ふ必要があるんですか」と代助が仕舞に聞いた。すると父《ちゝ》の顔《かほ》が赤《あか》くなつた。
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