ねころ》んで仕舞つた。
「何《なに》か日糖事件に関係でもあつたんですか」と代助が聞いた。
「日糖事件に関係はないが、忙《いそが》しかつた」
兄《あに》の答は何時《いつ》でも此程度以上に明瞭になつた事がない。実は明瞭に話したくないんだらうけれども、代助の耳には、夫が本来の無頓着で、話すのが臆怯なためと聞える。だから代助はいつでも楽《らく》に其返事の中《なか》に這入《はいつ》てゐた。
「日糖も詰《つま》らない事《こと》になつたが、あゝなる前に何《ど》うか方法はないもんでせうかね」
「左《さ》うさなあ。実際|世《よ》の中《なか》の事は、何《なに》が何《ど》うなるんだか分《わか》らないからな。――梅《うめ》、今日《けふ》は直木《なほき》に云ひ付《つ》けて、ヘクターを少し運動させなくつちや不可《いけな》いよ。あゝ大食《おほぐひ》をして寐て許《ばかり》ゐちや毒だ」と誠吾は眠《ねむ》さうな瞼《まぶた》を指《ゆび》でしきりに擦《こす》つた。代助は、
「愈《いよ/\》奥《おく》へ行《い》つて御父《おとう》さんに叱《しか》られて来《く》るかな」と云ひながら又|洋盞《コツプ》を嫂《あによめ》の前へ出《だ》した。梅子は笑《わら》つて酒《さけ》を注《つ》いだ。
「嫁《よめ》の事か」と誠吾が聞《き》いた。
「まあ、左《さ》うだらうと思ふんです」
「貰《もら》つて置《お》くがいゝ。さう老人《としより》に心配さしたつて仕様があるものか」と云つたが、今度はもつと判然《はつきり》した語勢で、
「気を付《つ》けないと不可《いかん》よ。少し低気圧が来《き》てゐるから」と注意した。代助は立《た》ち掛けながら、
「まさか此間中《このあひだぢう》の奔走からきた低気圧ぢやありますまいね」と念を押した。兄《あに》は寐転んだ儘、
「何《なん》とも云へないよ。斯う見えて、我々も日糖の重役と同じ様に、何時《いつ》拘引されるか分《わか》らない身体《からだ》なんだから」と云つた。
「馬鹿な事を仰《おつ》しやるなよ」と梅子が窘《たしな》めた。
「矢っ張り僕《ぼく》ののらくらが持ち来《き》たした低気圧なんだらう」と代助は笑ひながら立つた。
九の三
廊下|伝《づた》ひに中庭《なかには》を越《こ》して、奥《おく》へ来《き》て見ると、父《ちゝ》は唐机《とうづくえ》の前《まへ》へ坐《すは》つて、唐本《とうほん》を見
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