てゐた。代助は一口《ひとくち》飲《の》んで盃《さかづき》を下《した》へ下《おろ》した。肴《さかな》の代りに薄いウエーファーが菓子|皿《ざら》にあつた。
「旨《うま》いですね」と云つた。
「だから時代を当《あ》てゝ御覧なさいよ」
「時代《じだい》があるんですか。偉《えら》いものを買ひ込んだもんだね。帰《かへ》りに一本《いつぽん》貰《もら》つて行《い》かう」
「御生憎様、もう是限《これぎり》なの。到来物《とうらいもの》よ」と云つて梅子は椽側へ出《で》て、膝《ひざ》の上《うへ》に落《お》ちたウエーフアーの粉《こ》を払《はた》いた。
「兄《にい》さん、今日《けふ》は何《ど》うしたんです。大変気楽さうですね」と代助が聞《き》いた。

「今日《けふ》は休養だ。此間中《このあひだぢう》は何《ど》うも忙《いそが》し過《すぎ》て降参したから」と誠吾は火の消えた葉巻《はまき》を口《くち》に啣えた。代助は自分の傍《そば》にあつた燐寸《まつち》を擦《す》つて遣《や》つた。
「代《だい》さん貴方《あなた》こそ気楽ぢやありませんか」と云ひながら梅子が椽側から帰《かへ》つて来《き》た。
「姉《ねえ》さん歌舞伎座へ行《い》きましたか。まだなら、行《い》つて御覧なさい。面白いから」
「貴方《あなた》もう行《い》つたの、驚ろいた。貴方《あなた》も余《よ》っ程|怠《なま》けものね」
「怠《なま》けものは可《よ》くない。勉強の方向が違ふんだから」
「押《おし》の強い事ばかり云つて。人《ひと》の気も知らないで」と梅子は誠吾の方を見た。誠吾は赤《あか》い瞼《まぶた》をして、ぽかんと葉巻《はまき》の烟《けむ》を吹《ふ》いてゐた。
「ねえ、貴方《あなた》」と梅子が催促した。誠吾はうるささうに葉巻《はまき》を指《ゆび》の股《また》へ移して、
「今のうち沢山《たんと》勉強して貰《もら》つて置いて、今《いま》に此方《こつち》が貧乏したら、救《すく》つて貰《もら》ふ方が好《い》いぢやないか」と云つた。梅子は、
「代さん、あなた役者になれて」と聞いた。代助は何にも云はずに、洋盞《コツプ》を姉の前に出《だ》した。梅子も黙《だま》つて葡萄酒の壜を取り上《あ》げた。
「兄《にい》さん、此間中《このあひだぢう》は何だか大変|忙《いそが》しかつたんだつてね」と代助は前へ戻つて聞いた。
「いや、もう大弱りだ」と云ひながら、誠吾は寐転《
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