ものです。私はぼんやりお嬢さんの頭を見ていましたが、次の瞬間に、どっちか路《みち》を譲らなければならないのだという事に気が付きました。私は思い切ってどろどろの中へ片足|踏《ふ》ん込《ご》みました。そうして比較的通りやすい所を空《あ》けて、お嬢さんを渡してやりました。
 それから柳町の通りへ出た私はどこへ行って好《い》いか自分にも分らなくなりました。どこへ行っても面白くないような心持がするのです。私は飛泥《はね》の上がるのも構わずに、糠《ぬか》る海《み》の中を自暴《やけ》にどしどし歩きました。それから直《す》ぐ宅へ帰って来ました。

     三十四

「私はKに向ってお嬢さんといっしょに出たのかと聞きました。Kはそうではないと答えました。真砂町《まさごちょう》で偶然出会ったから連れ立って帰って来たのだと説明しました。私はそれ以上に立ち入った質問を控えなければなりませんでした。しかし食事の時、またお嬢さんに向って、同じ問いを掛けたくなりました。するとお嬢さんは私の嫌いな例の笑い方をするのです。そうしてどこへ行ったか中《あ》ててみろとしまいにいうのです。その頃《ころ》の私はまだ癇癪《かんし
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