いから割り出されるのですから、すべてが私には不利益でした。容貌《ようぼう》もKの方が女に好かれるように見えました。性質も私のようにこせこせしていないところが、異性には気に入るだろうと思われました。どこか間《ま》が抜けていて、それでどこかに確《しっ》かりした男らしいところのある点も、私よりは優勢に見えました。学力《がくりき》になれば専門こそ違いますが、私は無論Kの敵でないと自覚していました。――すべて向うの好《い》いところだけがこう一度に眼先《めさき》へ散らつき出すと、ちょっと安心した私はすぐ元の不安に立ち返るのです。
 Kは落ち付かない私の様子を見て、厭《いや》ならひとまず東京へ帰ってもいいといったのですが、そういわれると、私は急に帰りたくなくなりました。実はKを東京へ帰したくなかったのかも知れません。二人は房州《ぼうしゅう》の鼻を廻《まわ》って向う側へ出ました。我々は暑い日に射《い》られながら、苦しい思いをして、上総《かずさ》のそこ一里《いちり》に騙《だま》されながら、うんうん歩きました。私にはそうして歩いている意味がまるで解《わか》らなかったくらいです。私は冗談《じょうだん》半分K
前へ 次へ
全371ページ中275ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング