びぼうじん》と一人娘と下女《げじょ》より外《ほか》にいないのだという事を確かめました。私は閑静で至極《しごく》好かろうと心の中《うち》に思いました。けれどもそんな家族のうちに、私のようなものが、突然行ったところで、素性《すじょう》の知れない書生さんという名称のもとに、すぐ拒絶されはしまいかという掛念《けねん》もありました。私は止《よ》そうかとも考えました。しかし私は書生としてそんなに見苦しい服装《なり》はしていませんでした。それから大学の制帽を被《かぶ》っていました。あなたは笑うでしょう、大学の制帽がどうしたんだといって。けれどもその頃の大学生は今と違って、大分《だいぶ》世間に信用のあったものです。私はその場合この四角な帽子に一種の自信を見出《みいだ》したくらいです。そうして駄菓子屋の上さんに教わった通り、紹介も何もなしにその軍人の遺族の家《うち》を訪ねました。
私は未亡人《びぼうじん》に会って来意《らいい》を告げました。未亡人は私の身元やら学校やら専門やらについて色々質問しました。そうしてこれなら大丈夫だというところをどこかに握ったのでしょう、いつでも引っ越して来て差支《さしつか》
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