えないという挨拶《あいさつ》を即坐《そくざ》に与えてくれました。未亡人は正しい人でした、また判然《はっきり》した人でした。私は軍人の妻君《さいくん》というものはみんなこんなものかと思って感服しました。感服もしたが、驚きもしました。この気性《きしょう》でどこが淋《さむ》しいのだろうと疑いもしました。
十一
「私は早速《さっそく》その家へ引き移りました。私は最初来た時に未亡人と話をした座敷を借りたのです。そこは宅中《うちじゅう》で一番|好《い》い室《へや》でした。本郷辺《ほんごうへん》に高等下宿といった風《ふう》の家がぽつぽつ建てられた時分の事ですから、私は書生として占領し得る最も好い間《ま》の様子を心得ていました。私の新しく主人となった室は、それらよりもずっと立派でした。移った当座は、学生としての私には過ぎるくらいに思われたのです。
室の広さは八畳でした。床《とこ》の横に違《ちが》い棚《だな》があって、縁《えん》と反対の側には一間《いっけん》の押入《おしい》れが付いていました。窓は一つもなかったのですが、その代り南向《みなみむ》きの縁に明るい日がよく差しました。
私は移
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