。私は同時に病室の事が気にかかった。私がこのかきものを読み始めて、読み終らない前に、父はきっとどうかなる、少なくとも、私は兄からか母からか、それでなければ伯父《おじ》からか、呼ばれるに極《きま》っているという予覚《よかく》があった。私は落ち付いて先生の書いたものを読む気になれなかった。私はそわそわしながらただ最初の一|頁《ページ》を読んだ。その頁は下《しも》のように綴《つづ》られていた。
「あなたから過去を問いただされた時、答える事のできなかった勇気のない私は、今あなたの前に、それを明白に物語る自由を得たと信じます。しかしその自由はあなたの上京を待っているうちにはまた失われてしまう世間的の自由に過ぎないのであります。したがって、それを利用できる時に利用しなければ、私の過去をあなたの頭に間接の経験として教えて上げる機会を永久に逸《いっ》するようになります。そうすると、あの時あれほど堅く約束した言葉がまるで嘘《うそ》になります。私はやむを得ず、口でいうべきところを、筆で申し上げる事にしました」
 私はそこまで読んで、始めてこの長いものが何のために書かれたのか、その理由を明らかに知る事ができ
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