に比べるとよほど目方の重いものであった。並《なみ》の状袋《じょうぶくろ》にも入れてなかった。また並の状袋に入れられべき分量でもなかった。半紙で包んで、封じ目を鄭寧《ていねい》に糊《のり》で貼《は》り付けてあった。私はそれを兄の手から受け取った時、すぐその書留である事に気が付いた。裏を返して見るとそこに先生の名がつつしんだ字で書いてあった。手の放せない私は、すぐ封を切る訳に行かないので、ちょっとそれを懐《ふところ》に差し込んだ。

     十七

 その日は病人の出来がことに悪いように見えた。私《わたくし》が厠《かわや》へ行こうとして席を立った時、廊下で行き合った兄は「どこへ行く」と番兵のような口調で誰何《すいか》した。
「どうも様子が少し変だからなるべく傍《そば》にいるようにしなくっちゃいけないよ」と注意した。
 私もそう思っていた。懐中《かいちゅう》した手紙はそのままにしてまた病室へ帰った。父は眼を開けて、そこに並んでいる人の名前を母に尋ねた。母があれは誰、これは誰と一々説明してやると、父はそのたびに首肯《うなず》いた。首肯かない時は、母が声を張りあげて、何々さんです、分りましたか
前へ 次へ
全371ページ中167ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング