るい所とできて、その明るい所だけが、闇《やみ》を縫う白い糸のように、ある距離を置いて連続するようにみえた。母が昏睡《こんすい》状態を普通の眠りと取り違えたのも無理はなかった。
 そのうち舌が段々|縺《もつ》れて来た。何かいい出しても尻《しり》が不明瞭《ふめいりょう》に了《おわ》るために、要領を得ないでしまう事が多くあった。そのくせ話し始める時は、危篤の病人とは思われないほど、強い声を出した。我々は固《もと》より不断以上に調子を張り上げて、耳元へ口を寄せるようにしなければならなかった。
「頭を冷やすと好《い》い心持ですか」
「うん」
 私は看護婦を相手に、父の水枕《みずまくら》を取り更《か》えて、それから新しい氷を入れた氷嚢《ひょうのう》を頭の上へ載《の》せた。がさがさに割られて尖《とが》り切った氷の破片が、嚢《ふくろ》の中で落ちつく間、私は父の禿《は》げ上った額の外《はずれ》でそれを柔らかに抑《おさ》えていた。その時兄が廊下伝《ろうかづた》いにはいって来て、一通の郵便を無言のまま私の手に渡した。空《あ》いた方の左手を出して、その郵便を受け取った私はすぐ不審を起した。
 それは普通の手紙
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