が好きだとはいいません。けれども飲めば飲める質《たち》でしたから、ただ量を頼みに心を盛《も》り潰《つぶ》そうと力《つと》めたのです。この浅薄《せんぱく》な方便はしばらくするうちに私をなお厭世的《えんせいてき》にしました。私は爛酔《らんすい》の真最中《まっさいちゅう》にふと自分の位置に気が付くのです。自分はわざとこんな真似《まね》をして己れを偽《いつわ》っている愚物《ぐぶつ》だという事に気が付くのです。すると身振《みぶる》いと共に眼も心も醒《さ》めてしまいます。時にはいくら飲んでもこうした仮装状態にさえ入《はい》り込めないでむやみに沈んで行く場合も出て来ます。その上技巧で愉快を買った後《あと》には、きっと沈鬱《ちんうつ》な反動があるのです。私は自分の最も愛している妻《さい》とその母親に、いつでもそこを見せなければならなかったのです。しかも彼らは彼らに自然な立場から私を解釈して掛《かか》ります。
妻の母は時々|気拙《きまず》い事を妻にいうようでした。それを妻は私に隠していました。しかし自分は自分で、単独に私を責めなければ気が済まなかったらしいのです。責めるといっても、決して強い言葉ではありません。妻から何かいわれたために、私が激した例《ためし》はほとんどなかったくらいですから。妻はたびたびどこが気に入らないのか遠慮なくいってくれと頼みました。それから私の未来のために酒を止《や》めろと忠告しました。ある時は泣いて「あなたはこの頃《ごろ》人間が違った」といいました。それだけならまだいいのですけれども、「Kさんが生きていたら、あなたもそんなにはならなかったでしょう」というのです。私はそうかも知れないと答えた事がありましたが、私の答えた意味と、妻の了解した意味とは全く違っていたのですから、私は心のうちで悲しかったのです。それでも私は妻に何事も説明する気にはなれませんでした。
私は時々妻に詫《あや》まりました。それは多く酒に酔って遅く帰った翌日《あくるひ》の朝でした。妻は笑いました。あるいは黙っていました。たまにぽろぽろと涙を落す事もありました。私はどっちにしても自分が不愉快で堪《たま》らなかったのです。だから私の妻に詫まるのは、自分に詫まるのとつまり同じ事になるのです。私はしまいに酒を止《や》めました。妻の忠告で止めたというより、自分で厭《いや》になったから止めたといった方
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