『東洋美術図譜』
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)心丈夫《こころじょうぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)友人|滝《たき》君が
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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偉大なる過去を背景に持っている国民は勢いのある親分を控えた個人と同じ事で、何かに付けて心丈夫《こころじょうぶ》である。あるときはこの自覚のために驕慢《きょうまん》の念を起して、当面の務《つとめ》を怠《おこた》ったり未来の計を忘れて、落ち付いている割に意気地《いくじ》がなくなる恐れはあるが、成上《なりあが》りものの一生懸命に奮闘する時のように、齷齪《あくせく》とこせつく必要なく鷹揚自若《おうようじじゃく》と衆人環視の裡《うち》に立って世に処する事の出来るのは全く祖先が骨を折って置いてくれた結果といわなければならない。
余《よ》は日本人として、神武《じんむ》天皇以来の日本人が、如何なる事業をわが歴史上に発展せるかの大問題を、過去に控えて生息するものである。固《もと》より余一人の仕事は、余一人の仕事に違いない
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