繪を描いて遊んでゐると、矢張《やは》り仙人だの坊主だの山水だのが天然自然題目になります。是《これ》もある意味に於《おい》てあなたの神話に丹精《たんせい》を盡したと同じ動機になるのではありますまいか。弱い神經衰弱症の人間が無暗《むやみ》に他の心を忖度《そんたく》して好い加減《かげん》な事を申して濟みません。もし間違つたら御勘辨を願ひます。
 最後に神樣の名前の發音に就《つ》いて一寸《ちよつと》申上げます。あなたの發音法は大部分大陸|讀方《よみかた》(コンチネンタル・メソツド)を用ゐられた樣《やう》ですが、日本で云ひ慣《な》らされたバツカスとか※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ーナスとか云ふのは英吉利《イギリス》讀《よみ》にされたと見えますから其邊《そのへん》は一寸《ちよつと》讀者に注意して置いて遣《や》らないと惡いだらうと思ひます。夫《それ》から又|羅甸《ラテン》讀《よみ》にしてもクオンチチイを付けて發音しないで、のべつに羅馬《ローマ》字綴りの讀み方|見《み》たやうに遣《や》つたのがあるなら、夫《それ》も序《ついで》に斷《ことわ》つて置いて御遣《おや》んなさい。
 序を書きたいのは山
前へ 次へ
全7ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング