『心』自序
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《〔〕》:底本の編集部による、現代仮名遣いのルビ
(例)差支《〔さしつかえ〕》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一遍|丈《〔だけ〕》を

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とう/\
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『心』は大正三年四月から八月にわたつて東京大阪両朝日へ同時に掲載された小説である。
 当時の予告には数種の短篇を合してそれに『心』といふ標題を冠らせる積《〔つもり〕》だと読者に断わつたのであるが、其短篇の第一に当る『先生の遺書』を書き込んで行くうちに、予想通り早く片が付かない事を発見したので、とう/\その一篇|丈《〔だけ〕》を単行本に纏めて公けにする方針に模様がへをした。
 然し此『先生の遺書』も自から独立したやうな又関係の深いやうな三個の姉妹篇から組み立てられてゐる以上、私はそれを『先生と私』、『両親と私』、『先生と遺書』とに区別して、全体に『心』といふ見出しを付けても差支《〔さしつかえ〕》ないやうに思つたので、題は元の儘にして置いた。たゞ中味を上中下に仕切つた丈が、新聞に
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