してそれ丈の価値があるかないかは著者の分として言うべき限りでないと思う。ただ自分の書いたものが自分の思う様な体裁で世の中へ出るのは、内容の価値|如何《いかん》に関らず、自分|丈《だけ》は嬉《うれ》しい感じがする。自分に対しては此事実が出版を促《うな》がすに充分な動機である。
此書を公けにするに就《つい》て中村不折氏は数葉の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]画をかいてくれた。橋口五葉氏は表紙其他の模様を意匠してくれた。両君の御蔭《おかげ》に因《よ》って文章以外に一種の趣味を添え得たるは余の深く徳とする所である。
自分が今迄「吾輩は猫である」を草しつつあった際、一面識もない人が時々書信又は絵端書抔《えはがきなど》をわざわざ寄せて意外の褒辞《ほうじ》を賜わった事がある。自分が書いたものが斯《こ》んな見ず知らずの人から同情を受けて居ると云う事を発見するのは非常に難有《ありがた》い。今出版の機を利用して是等《これら》の諸君に向って一言感謝の意を表する。
此書は趣向もなく、構造もなく、尾頭の心元なき海鼠《なまこ》の様な文章であるから、たとい此一巻で消えて
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング