「自然を寫す文章」
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]―明治三九、一一、一『新聲』―
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)くる/\と引つ張つて
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自然を寫すのに、どういふ文體が宜いかといふ事は私には何とも言へない。今日では一番言文一致が行はれて居るけれども、句の終りに「である」「のだ」とかいふ言葉があるので言文一致で通つて居るけれども、「である」「のだ」を引き拔いたら立派な雅文になるのが澤山ある。だから言文一致は便利ではあらうが、何も別にこれでなければ自然は寫せぬといふ文體はあるまい。けれども漢文くづしの文體が可いか、言文一致の細かいところへ手の屆く文體が可いかといふ事は、韻致とか、精細とかいふ點に於て一寸考へものだらうとは思ふ。
韻致とか精細とか言ふ事は取りやうにもよるが、精細に描寫が出來て居て、しかも餘韻に富んで居るといふやうな文章はまだ私は見た事がない。或一つの風景について、テンからキリまで整然と寫せてあつて、それがいかにも目の前に
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