忘れ難きことども
松井須磨子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呼吸《いき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|後方《うしろ》から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](「演芸画報」大正七・一二)

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\
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 先生のことを思ひますと、唯私は悲しくなります。先生は、随分苦労をなさいました。ほつと呼吸《いき》をつく間もない位に、殆んど苦労のし通しでした。それを残らず傍にゐて見知つてゐるだけに、皆私には忘れられないことばかりです。
 先生は、ずつと以前から、私達一座を率ゐて西洋へ行つて見たいと云ふお考へを持つてゐらつしやいました。はなは、大連から露西亜《ろしあ》へ、露西亜から亜米利加《あめりか》の方へ行つて見たいと云つてゐらつしやいました。ところで、今年は其の大連から浦潮《うらじほ》の方まで行つて見ましたから、今度はのつけに亜米利加へ行つて、ずつと向うを巡廻して見たいと云つてゐらつしやいました。そして、一と廻り興行をした
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