つた。
小楠公の墓、大樟。
淀川風景はよい。

 三月十八日[#「三月十八日」に二重傍線] 曇、肌寒い、彼岸入。

早起出発。
石清水八幡宮。
或るお婆さん、二銭の喜捨拝受。
電車で京都へ、北朗居にころげこむ。
北朗君と同道して陶工石黒さんを訪ねる。
寸栗子翁の訃を聞いて驚く、いよ/\近火を感じる。
夕方、みんないつしよに――奥さんも子供さんも――南禅寺境内の豆腐料理を賞味する、さすがにおいしかつた。
京都の豆腐はうまい。
夜は別れて一人、新京極を散歩する、そしてそこに寝てしまふ。
――飲む食べる、しやべるふざける、――それだけが人生か!

 三月十九日[#「三月十九日」に二重傍線] 晴。

朝は寒く昼は暖か。
どこといふあてもなく、歩きたい方へ歩きたいだけ歩いた。――
八坂の塔、芭蕉堂、西行庵、智恩院、南禅寺、永観堂、銀閣寺、本願寺、等々等。
桂子さんから速達で手紙を受取つた、何だか誤解されてゐる、嫌な気持になつた。
夜の北朗居は賑やかだつた、句会といふよりも坐談会だつた。
仙酔楼君と逢ふ、まことにしばらくだつた。
世間はうるさいね、女もうるさいね。
こだはるなかれ。
自分の信ずる道
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