、青葉若葉の青さ、せぐりおちる谷水の白さ、山つゝじの赤さ。
道は広くてよいけれど、山崩れがあつて道普請が初まつてゐる。
ほどなく山田温泉に着いた、まさに十二時、薬師堂があつて吉野桜が美しい。
山田温泉場はこぢんまりとして、きれいに掃き清められてゐる、そこがかへつて物足らないやうにも感じられる。
高井橋といふ吊橋も立派なものである。
バスが通う[#「う」に「マヽ」の注記]、一路坦々としてすべるやうに須坂へ向ふ、道ばたに蒲公英が咲きみだれてうつくしい。
子安橋、樋沢橋、千曲川が遙かに光つて見える、郭公が啼きつゞける。
途中、酒屋に寄つて一杯また一杯。
須坂まで三里、さらに西風間まで三里、バスも電車も都合よくないので歩く。
晴れそうであつたが降つて来た、小雨だから濡れるままに濡れる。
妙高、黒姫、戸穏[#「穏」に「マヽ」の注記]の山々が好きな姿を見せたり消したりする。
千曲川を渡る、村上橋は堂々たるものである、もう長野は遠くない。
やうやく北光居をおとづれる、すぐ着換へさせて下さる、手織木綿らしいぎこちなさが却つて温情と質実とを与へる、やれ/\よかつた/\ありがたい/\。
(今日は強行で十里
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