がある。
朝の膳に川魚のカツレツが載せてある、ちようど草津の宿で、夕飯としてカレーライスをどつさり出されたやうなものだ、おかしくもあり、いやでもあり、珍妙々々。
私が温泉を好むのは、いはゆる湯治のためでもなく遊興のためでもない、あふれる熱い湯に浸つて、手足をのび/\と伸ばして、とうぜんたる気分になりたいからである。
豊富な熱湯、閑静な空気が何よりだ。
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――(山をうたふ)――
・春の鳥とんできてとんでいつた(白根越へ)
・ひとりで越える残雪をたべては
・山ふところ咲いてゐる花は白くて
・杖よどちらへゆかう芽ぶく山山
・墓が一つこゝでも誰か死んでゐる
・山路しめやかな馬糞をふむ
・残雪ひかる足あとをたどる
・山路たま/\ゆきあへばしたしい挨拶
・春の山のそここゝけむりいたゞきから吐く
・いたゞきの木はみんな枯れてゐる風
・残雪の誰かの足あとが道しるべ
――(山をうたふ)――
・山は火を噴くとゞろきの残雪に立つ
・すべつて杖もいつしよにころんで
・残雪をふんできてあふれる湯の中
・とつぷり暮れて音たてて水
万座温泉
・水音がねむらせないおもひでがそ
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