川旅情の歌が金属板にしてある、その傍の松の木が枯れかけてゐるのは寂しかつた、……雲白く遊子かなしむ……旅情あらたに切なるを感じた。
二之丸阯に藤村庵[#「藤村庵」に傍点]がある、古梁庵主宮坂さんが管理してゐる、小諸文化春秋会といふ標札も出してある(藤村氏自身は藤村庵を深草亭[#「深草亭」に傍点]と名づけた)。
二之丸阯の石垣の一つに牧水の歌が刻んである――
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かたはらに秋くさの花かたるらく
  ほろびしものはなつかしきかな
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見晴台からの眺望はよろしい、千曲川のよいところがよく眺められる。
噴き出してゐる水もよかつた。
夜は一杯ひつかけて街を散歩する、小諸銀座といふてもお客は通らない、小川の水音が聞えるだけだ。
なか/\寒い、風が旅愁をそゝる。
また一杯ひつかけて、おばあさんのいはゆる娑婆ふさぎのからだを寝床に横たへた。……

 五月十九日[#「五月十九日」に二重傍線] 曇、風、雨。

さすがに浅間の麓町だけあつて、風が強くて雨が冷たい。
やつぱり酒だ、酒より外に私を慰安してくれるものはない(句作と友情とは別物として)、朝から居酒屋情調を味
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