濃路、その他にて)
また一枚ぬぎすてる旅から旅へ
水の上はつきり春の雲
はてなき旅の遠山の雪ひかる
あれがふるさとの山なみの雪ひかる
街の雑音しづもれば恋猫の月
枯葦の一すぢの水のながれ
春風のテープちぎれてたゞよふ
手から手へ春風のテープ
[#ここで字下げ終わり]
三月一日[#「三月一日」に二重傍線] 緑平居、雪、霜、霙。
緑平老は私の第一の友人だ。
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遠山の雪ひかるどこまで行く
[#ここで字下げ終わり]
三月二日
今日は事務家となつて句集発送。
雪、雪、雪だつた。
ヘツドランプ[#「ヘツドランプ」に傍点]をうたふ。
三月三日
酔うて、ぬかるみを歩いて、そして、また飯塚へ、それから二瀬へ。
逢うてはならないKに逢ふたが。
とろ/\どろ/\、ほろ/\ぼろぼろの一日だつた。
死に場所が、死に時がなか/\に見つからないのである!
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ふりかへるボタ山ボタン雪ふりしきる
雪ふる逢へばわかれの雪ふる
[#ここで字下げ終わり]
三月四日 岔水居。
何といふ憂欝、歩く外ない。
若松へ、多君に事情を打明けて旅費を借る、そして門司へ。
黎君を訪ねる、理髪、会食、同伴で岔君を訪ふ。
岔水君はうれしい人だ、黎々火君も。
さびしいけれどあたゝかい家庭。
三月五日[#「三月五日」に二重傍線] ばいかる丸。
神戸直航の汽船に乗り込む。
さよなら、黎々火君、さよなら、岔水君よ。
さよなら、九州の山よ海よ。
テープのなげき。
こゝろやすらかな海上の一夜だつた。
三月六日[#「三月六日」に二重傍線] 詩外楼居。
朝、神戸着。
上陸第一歩、新らしい気分であつた。
詩外楼居。
めいろ君を訪ふ。
あたゝかく、ぐつすり睡れた、ありがたかつた。
詩外楼君に感謝する、奥さんにも。
三月七日[#「三月七日」に二重傍線] 詩外楼居。
曇、花ぐもりのやうな。
朝湯のあつさ、こゝろよさは。
めいろ居を訪うて、おいしい昼飯をいたゞく、それから新開地を散歩して、忍術映画見物、馬鹿馬鹿しいのがよろしい。
賀英子嬢をめぐまれためいろ君のよろこびをうたふ――
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雛をかざらう
雛のよにうまれてきた
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何だか寝苦しかつた。
旅の袂草の感想。
三月八日[#「三月八日」に二重傍線] 愚郎居。
雪中吟行、神戸大阪の同人といつしよに、畑の梅林へ、梅やら雪やら、なか/\の傑作で、忘れられない追憶となるだらう、西幸寺の一室で句会、句作そのものはあまりふるはなかつたが、句評は愉快だつた、酒、握飯、焼酎、海苔巻、各自持参の御馳走もおいしかつた。
夕方私一人は豊中下車、やうやく愚郎居をたづねあてゝほつとした、例によつて酒、火燵、ありがたかつた。
雪は美しい、友情は温かい、私は私自身を祝福する。
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・暮れて雪あかりの、寝床をたづねてあるく
・木の葉が雪をおとせばみそさゞい
・雪でもふりだしさうな、唇の赤いこと
・春の雪ふるヲンナはまことにうつくしい
・春比佐良画がくところの娘さんたち
・からたちにふりつもる雪もしづかな家
追加一句
みんな洋服で私一人が法衣で雪がふるふる
[#ここで字下げ終わり]
三月九日[#「三月九日」に二重傍線] 愚郎居。
晴、雪はまだ消えない、春の雪らしくもなく降りつもつたものだ。
整理、裂く捨てる、洗ふ。
朝湯朝酒とはもつたいない、今日にはじまつたことではないけれど。
ほろよい人生[#「ほろよい人生」に傍点]、へゞれけ人生であつてはならない、酒、酒、肴、肴と御馳走責めにされた、奥さんの手料理はおいしい。
夜はSさん来訪、書いたり話したり笑つたり。
[#ここから2字下げ]
・火燵まで入れてもろうて猫がおさきに
(愚郎居)
・雪あかりの日あかりの池がある畑がある
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三月十日[#「三月十日」に二重傍線]
比古君の厄介になる。
比古君は私にピタリと触れてくれる、うれしかつた。
奥さんに連れられて、大阪劇場で、松竹レヴユー見物、まことに春のおどり!
夜は新町でのんきに遊ぶ。
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・こどもに雪をたべさしたりしてつゝましいくらし
・きたない池に枯葦の葉も大阪がちかい
・春風の旗がはた/\特別興行といふ
・うらはぬかるみの、女房ぶりの、大根やにんじん
・雲のゆききのさびしくもあるか
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三月十一日[#「三月十一日」に二重傍線]
ほつかり覚める。
新町のお茶屋の二階、柄にもない。
比古君が方々を連れ歩いてくれる。
汁といふ店で汁を食べた、さすがに大阪だと思つた。
夜はまた新町へ。
三月十二日[#「三月十二日」に二重傍線] 曇。
ぶらつくうちに日が暮
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