かつたけれど、I旅館へ短冊売にいつて気持が悪くなつたので、早々海を渡つて汽車に乗り込んだ、麻里布で下車、人絹会社のM氏を訪ねる、黙壺君からの紹介があるので気持よく五六枚買うて貰ふ。
何とかいふ安宿に泊る、何だか変な家だ。
夜はバスで岩国へ出かけた、錦帯橋の上で河鹿に聞き入つた、さびしいがよい夜であつた。

 六月四日 晴、M居。

起きるより酒屋へ駈けつけて一杯また一杯。
岩国の町へはまはらないで愛宕村を歩いた、山のみどりがめざましい、おゝ、あの山がそれか、あの山林で弟は自殺したのか、弟よ、お前はあまりに弱く、そしてあまりに不幸だつたね!
藤生から汽車で柳井へ、バスで伊保庄へ、Mさんに面接する、白船君を通して知つてはゐたけれど、旧知の友達のやうな気がした、話すほどに飲むほどに酔うてしまうてすゝめれ[#「めれ」に「マヽ」の注記]るまゝに泊めてもらつた。
近来にない楽しい対酌であつた。

 六月五日 晴。

朝から酒、それもよろしい(Mさんのところは造り酒屋で、Mさんはその主人で、しかもさうたうの左党だ)、お土産として生一本を頂戴する、酒銘として幾山河[#「幾山河」に傍点]は好いでないこと
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